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第5回WEBコラム「ITIL適用によって企業は何を得られるのか」

PCネットワークの管理・活用を考える会(大阪) WEBコラム

<著者略歴>
そのご苦労とノウハウ、笑い、叫び?を執筆された、「システム管理者の眠れない夜」連載をWindowsNTWorld誌(現在WindowsServerWorld)において1996年より開始。
現在も好評連載中であり、その人気から製本化・出版されております。
(株)クボタをご退社され、現在、大阪市立大学大学院 創造都市研究科 都市情報学専攻 博士(後期)課程にて日々研究に明け暮れる毎日。

はじめに

PCネットワークの管理活用を考える会/クライアント管理分科会、関西座長の柳原です。

今回のコラム執筆は大幅に遅くなりました。まずもって、この点をお詫びしなければなりません。理由は柳原の個人的なもので、研究の学会発表、その他の原稿執筆などが重なり身動きがとれませんでした。深くお詫びいたします。

大学院での私の研究は、主に企業内での知識創造をめざしたコミュニティ形成支援と、そのシミュレーションです。同時に企業内における、情報キーマンが社外コミュニティとどのような関係にあるかも研究対象にしています。そのため「PCネットワークの管理活用を考える会」がどのように発展するかについても、興味深く見守りつつ、積極的に関与していく立場です。

常々私は、クライアント管理という仕事は、単に技術的側面だけから解決できるものではないと思っていました。またユーザ側は、一人のシステム管理者が頑張ることで解決できることではなく、暗黙的、明示的にかかわらず、ユーザコミュニティの形成と、そこで生まれる相互信頼が必要だと考えています。これを学問的に説明することが、筆者の現在の仕事です。

もし、このような問題にご興味のある方は、ぜひご連絡ください。分科会活動を通じて、一緒に考えていこうではありませんか。

分科会:「ITIL適用によって企業は何を得られるのか」

前回の分科会(2004年10月18日)では、株式会社プロシードの島崎理一氏から、今注目の「ITIL」についてプレゼンテーションを頂きました。ITILは、教科書的に言えば、ITサービスマネジメントの「ベストプラクティス」を集めた「フレームワーク」である、ということになります。

まず、「フレームワーク(framework)」とは何でしょうか。

直訳では「(物事を考える際の)枠組・構造」ということになりますが、プログラミングのお仕事をなさっている方にとっては、「オブジェクト指向プログラミングにおける、ソフトウエア再利用方法の1つ」という意味になってしまいます。このように一つの言葉も、立場が変わればまったく意味が違ってきます。私たちは、こうした言葉を使うときは十分な注意が必要です。

次に、「ベストプラクティス(best practice)」とは何でしょうか。

これも教科書的に言えば「最も効果的・効率的な実践の方法、または最優良の事例」という意味です。ビジネスや経営の立場では、最も優れていると考えられる業務プロセス、ビジネスノウハウのことを指します。よく、ERPパッケージに対して「ERPはベストプラクティスの集まりである」というような言い方がされますね。経営管理手法としての「ベンチマーキング」において、自社をその状態に近づけるべき最高水準の状態として、比較・分析の対象となるモデルのことを指すこともあります。

つまり、ITILは「ITサービスをユーザに提供していくための最も効果的・効率的な実践の方法を集めた枠組み」ということになります。

こうしてみると、情報システムを運用管理する立場からは、ITILには「答」がつまっているように思えます。おそらく、世間一般ではそう理解している人も多いのではないでしょうか。

ところが「そうではない」と、島崎氏は力説されました。ここが重要なところです。

自分の頭で考えよう

分科会の真っ最中、私の頭をよぎった言葉があります。それは、「ブルー・バード・シンドローム」でした。この言葉は、1980年代前半のニート(さっぱりした)世代の若者たちと社会風潮を総称した言葉で、メーテルリンクの妖精劇『青い鳥』に出てくるチルチルとミチルのように夢想的で地に足がついていないことを指しています。

誤解して欲しくないのですが、私はITILそのものから、ブルー・バード・シンドロームを連想したのではなりません。ITILに誤った期待を寄せる人のことを想像して、この言葉を思い出したのです。

ITILはあくまでも「枠組み」です。この枠組みを自社に適用していくためには、組織の構造や、人が担う業務の考え方、その方法を変えていく必要があります。これを実際に行おうとしたとき、組織の壁、人々の抵抗、組織風土との軋轢などが待ち受けていることは容易に想像がつきます。

よって、ITILによって企業が簡単に変貌するようなことは、あり得ません。そこに必要なのは、フレームワークであるITILを「自社版ITIL」に昇華させることです。そして、自社の状況に応じて、実行可能な手順、スケジュールを立案することなのです。夢物語を計画してはいけません。あくまでも「自社にとって現実的」なITILを立案する必要があるのです。

これは、皆さん自身が考える事です。つまり「自分の頭で考えよう」ということです。自社のことは自分自身で考える、という当たり前の事なのですが、ついつい、私たちは「ベストプラクティス」という言葉に魅了されてしまいます。

しかし、世界のベストプラクティスが、あなたの会社を変えてくれるという保障はどこにもありません。それは貴方が考えなければならないのです。

自己紹介

パーソナルコンピュータとの付き合いは1979年のNEC社製PC-8001から始まっています。
1985年から当時はオフコンと呼ばれていたIBM社のシステム36を使って、機械製造メーカでの社内用生産管理システムの構築に関わりました。言語はRPGでした。 1990年ごろから社内にパソコン通信やLANを導入してきました。この頃からネットワーク上でのコミュニケーションに関わっており、1993年以降はインターネットとWindows NTによる社内業務システムの開発、運用を行ってきました。
1996年からはインターネット上でのコミュニティであるNT-Committee2に参加し、全国各地で勉強会を開催しています。
http://www.hidebohz.com/Meeting/
1997年からはIDGジャパンのWindows NT World誌に「システム管理者の眠れない夜」というコラムの連載を始めました。連載は既に7年目に突入し、誌名は「Windows Server World」に変わっていますが、読者の皆さんに支えられて今でも毎月、締め切りに追われる日々が続いています。
連載から生まれたメーリングリストもあります。ご参加はこちら。お気軽にどうぞ。

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