PCネットワークの管理活用を考える会/クライアント管理分科会、大阪座長の柳原です。「PCネットワークの管理・活用を考える会」の活動は今年の7月から平成18年度に入りました。一区切りの10年を過ぎ、これで11年目の活動になります。IT業界にはドッグイヤーという言葉があるように、3年先といえば、遠い将来のように見える業界です。その中で10年に渡って会が継続しているのですから、これはすごい事だと言えるでしょう。本年も、大阪での分科会座長を勤めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
今年度の「クライアント管理分科会」では、IT資産管理に関する内部統制強化の実用的なプロシージャ(手続書)を参加者全員で作成していこうとしています。この活動に入るにあたって、私がつらつらと考えたことを、今回はお話します。主に、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)とIT資産管理の関係です。
このコラムをお読みになっている皆さんの中には、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)を自社の情報システム運用に、どう生かしていくかという問題に悩んでいる方が多いのではないでしょうか。今回は、私たちがIT資産管理やITILとどう付き合っていくべきなのかを考えてみたいと思います。
ITILは一般に、ITサービスマネジメントのベストプラクティスを集めた書籍である、と言われています。日本語というのは、外来語が並ぶとなんだかそれらしく聞こえる性質があるのですが、あまり硬く考える必要はなく、身近な言葉で言えば、ITサービスマネジメントのハウツー本だと思えばいいのです。
ITILは7つの分野から構成されています。それらは、IT技術とビジネスを円滑に橋渡しするために必要な業務分野であり、以下のように分類されています。
図に配置すると、次のようになります。かなりアバウトなイメージですが、各業務分野の位置づけはこれで理解できるのではないでしょうか。
こうしてみると、導入計画立案やアプリケーション管理、そしてセキュリティ管理といった分野は、比較的分かりやすいと思います。
計画しなければIT予算は確保できませんし、要員計画も成り立ちません。アプリケーションは実務と直結しています。セキュリティ管理は、昨今の情報漏洩対策などによって、かなり真剣に対応しておられると思います。またビジネス展望は、単純に言えばITがその企業のビジネスにどう貢献するのか?ということとその方策ですから、日本的に言えば、CIOが描く情報化計画に相当します。
これらに対して分かりにくいのが、サービスサポート、サービスデリバリ、ICTインフラストラクチャ管理の3つでしょう。
サービスサポートは、ITサービスをビジネス現場に提供する際に必要となる業務、すなわち、運用・サポート・メンテナンスなどを行う「サービスデスク機能」と、それを支えるプロセスとしてのインシデント管理、問題管理、変更管理、リリース管理、構成管理といった業務を指します。
サービスデリバリは、サービスサポートによって提供しようとするITサービスそのものを、高品質、かつ継続的に維持するために必要となる業務、と理解すればいいでしょう。ITサービスの可用性(availability)管理、キャパシティ管理、ITサービス財務管理、ITサービス継続性管理、などの業務があります。
可用性の高いシステムとは、要するに滅多に障害が発生せずいつでも安心して使えるシステムを指します。そのためには、サーバやクライアント、ネットワークなどの構成要素が適切なキャパシティを保持しなければならず、そのためには適切な費用が投入されなければならない、ということです。最後の継続性管理には、リスク分析なども含まれます。
そして、これらのサービスサポートとサービスデリバリという業務を円滑に進めていくための共通情報基盤となるのが、ICTインフラストラクチャ管理である、と考えられます。
このように考えていくと、ITILは何も目新しいことを提唱しているわけではなく、本来のITサービスマネジメントにとって、必要不可欠な業務プロセスを列記したものに過ぎません。ですから、ITILはハウツー本なんだ、ということになります。
ただ、注意してほしいのは、このITILに書かれているは「これだけはちゃんとやりましょうね?」という「機能」だけであって、それを実行する方法、すなわち「実装」についてはまったく言及していません。実業務に落とし込んでいくための「実装」は、私たちそれぞれが考えていかなければならない、ということです。では、その「実装」について、どこから手をつければいいのでしょうか。
ITILが示す7つの分野は、それぞれは至極ごもっとも、といえるものなのですが、では実際に、どこから着手すればいいのか?と考えると、たいていの人は立ち止まってしまいます。IT技術者の方なら、図の右側から着手しようとするかもしれませんね。経営者寄りの方なら左側から着手しようとするでしょう。たいていの人は、最初に自分の得意な分野からはじめようとするでしょう。それが普通です。
また、ITILへのサポートを表明しているSIベンダーに相談すると、たいてい「サービスサポート」から始めましょう、という話になるようです。理由は簡単で、サービスサポート業務というのはヘルプデスク支援業務に似ていて、システム化が容易なのです。つまりSIベンダーとしては、商売につながりやすいところからITILを始めようとします(苦笑)。ビジネス展望や導入計画などは、SIベンダーというよりも、コンサルティング会社の仕事ですよね。
こうした、SIベンダーやコンサルティング会社に予算を割ける場合はまだ楽なのかもしれません。問題は、まだITIL対応予算はなく、SIベンダーにもコンサルティング会社にも相談できない企業は、どこから始めれば良いか、です。
結論から言えば、まず最初に「IT資産管理」を始めて欲しいと思います。
「IT資産管理」という言葉は、ITILの7つの分野には出てきませんが、実は次の図のように、7つの業務分野を進めていくための、基礎となるものなのです。いずれの分野においても、その基礎データは「現状認識」であり、そこから私たちは次に何をすべきなのか?を考えるのです。
私たちは今、どのようなスペックのコンピュータを何台保有しているのか?そこではどのようなソフトウェアが稼動しているのか?それらは、何のために、誰がどのような予算から導入したものなのか?その責任者は誰なのか?こうした基礎データを正確に収集し、常に維持することによって、ITILの7つの分野について、その実装を検討していくことができるでしょう。もし、この基礎データもなしに実装を考えたとしても、それは理念が先行した机上の空論に過ぎません。
ITILという言葉や理念に振り回されるのではなく、地に足のついた、地道な行動が必要なのです。そのためにはまず、現状を正しく認識するための「IT資産管理」が必要だということを強調しておきたいと思います。
ITILでは、ICTインフラストラクチャ管理やサービスサポートの中核機能として、CMDB(Configuration Management Data Base:構成管理データベース)の構築が提案されています。しかし誤解しないで欲しいのは、ITILにおけるCMDBは、あくまでもその機能が提示されているだけである、ということです。このために、その実装は私たちが考えなければなりません。
もちろん、ITILへの対応を謳った統合管理ツールを導入する、という方法もその実装のひとつでしょう。しかし、企業がITに何を求めるのか(ビジネス展望)によって、こうした実装は違ってくるのが当然でしょう。この実装を、身の丈にあったものにするためにも、まず最初に、その基礎データを提供する「IT資産管理」を、真剣に考えていく必要があるのではないでしょうか。
パーソナルコンピュータとの付き合いは1979年のNEC社製PC-8001から始まっています。
1985年から当時はオフコンと呼ばれていたIBM社のシステム36を使って、機械製造メーカでの社内用生産管理システムの構築に関わりました。言語はRPGでした。
1990年ごろから社内にパソコン通信やLANを導入してきました。この頃からネットワーク上でのコミュニケーションに関わっており、1993年以降はインターネットとWindows NTによる社内業務システムの開発、運用を行ってきました。
1996年からはインターネット上でのコミュニティであるNT-Committee2に参加し、全国各地で勉強会を開催しています。
http://www.hidebohz.com/Meeting/
1997年からはIDGジャパンのWindows NT World誌に「システム管理者の眠れない夜」というコラムの連載を始めました。連載は既に7年目に突入し、誌名は「Windows Server World」に変わっていますが、読者の皆さんに支えられて今でも毎月、締め切りに追われる日々が続いています。
連載から生まれたメーリングリストもあります。ご参加はこちら。お気軽にどうぞ。
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