第27回WEBコラム「次の10年、OSは隠蔽されるか?」

PCネットワークの管理・活用を考える会(大阪) WEBコラム

<著者略歴>
そのご苦労とノウハウ、笑い、叫び?を執筆された、「システム管理者の眠れない夜」連載をWindowsNTWorld誌(現在WindowsServerWorld)において1996年より開始。
現在も好評連載中であり、その人気から製本化・出版されております。
(株)クボタをご退社され、現在、大阪市立大学大学院 創造都市研究科 都市情報学専攻 博士(後期)課程にて日々研究に明け暮れる毎日。

はじめに

2010年という節目が来ました。情報化の流れに区切りがあるわけではないのですが、ちょうど良い機会です。これからの10年というものを予想してみましょう。将来を予想するためには、まず歴史を読み解く必要があります。

30年を振り返る

1980年代はパソコンと呼ばれるものが登場し、ハードウェアが大きく変貌した時代でした。CPUは8bitから32bitへ進化し、立派に仕事に使えるところまで成長しました。EthernetとネットワークをサポートしたOSが登場し、大企業がUNIXワークステーションやDOSパソコンによるダウンサイジングを模索した時代です。

1990年代はソフトウェアが大きく変貌した時代です。Linus Torvalds がLinuxカーネル for x86を発表したのは1991年。1995年にはWindows 95やWindows NTの導入によって企業でのPC1人1台化が急速に進行しました。

そして2000年代に入ってからの10年間が大変でした。Windows 2000とMac OS Xの登場。PCとブロードバンド環境の低価格化とコモディティ化が進みました。一般ユーザが使うPC市場は、複数のOSが入り乱れる状態になりました。

また、大量のサーバを安定運用させ、負荷に応じたスケーラビリティを確保することが如何に大変か、ということがはっきりしてきました。そのひとつの答として、クラウドが登場しています。

一方、携帯電話からインターネットにアクセスすることが当たり前になったのもこの時代です。現在はスマートフォンの普及が進んでいますが、それもiPhone, Windows Mobile, Android, BlackBerry, Symbian OSなどがしのぎを削っている状態です。

一言でまとめてしまうと、21世紀の最初の10年は、インターネットの普及と、クラウド環境やスマートフォンを含めたOSの乱立状態だったと言えるでしょう。

違いを隠蔽したものの勝ち。次は何が?

さて、これまでの技術の発展を振り返ってみると、共通しているものがあります。それは「違いを隠蔽する」ということです。「違い」は「下位層」と読み替えても良いでしょう。

EthernetとTCP/IPによって物理的な通信方法や通信相手のOSの違いが隠蔽されました。WindowsなどのOSは異なるハードウェアを隠蔽し、同じソフトウェア開発環境と操作系を提供しました。この流れはこれからの10年でも変わらないと思われます。

すると、次に隠蔽されるべきものは何でしょうか。それが、これからの10年を予想するキーワードになりそうです。

次のキーワード、HTML5

これまでお話したように、現在の私たちは複数のOSに囲まれて生活しています。この状態はユーザにとっても、ソフトウェアを開発する側にとっても、そしてそれらを運用管理する側にとっても煩雑であることは間違いありません。

その意味で、次に隠蔽されるべきものはOSだと思うのです。ではこれらを隠蔽してくれるものは何でしょうか。

現在のところ、期待できそうなものはHTML5が稼働するブラウザ環境でしょう。Googleの最大のイベントであるGoogle I/O 2009(2009年5月)では、これが大々的にアピールされました。デモの中では、HTML5とJavaScriptによって、Webアプリケーションがネイティブアプリケーションに近い、スムースな動きを見せました。HTML5をサポートしたブラウザ環境が、OSに替わるアプリケーションプラットフォームになっていく可能性は十分あると思います。これらのデモンストレーションは、youtubeにも多数アップされています。

もちろん、現在のWindowsとアプリケーションがすぐに不要になるわけではありません。しかし、多くの企業がIT費用の削減に躍起になっている以上は、HTML5によるWebアプリケーションの優位性はますます高まるはずです。SMB市場ではSaaSが注目されていますが、これもHTML5によって、より操作性に優れたアプリケーションに進化していくでしょう。グループウェアやTV会議システムなども例外ではありません。

2010年中にはHTML5の正式版が登場するでしょう。同時にHTML5とJavaScriptを利用したアプリケーションが続々と生まれるはずです。こうした環境での、ソフトウェアのライセンス管理や操作ログ監視機能などは、機能面での見直しが必要になるかもしれませんね。

自己紹介

パーソナルコンピュータとの付き合いは1979年のNEC社製PC-8001から始まっています。
1985年から当時はオフコンと呼ばれていたIBM社のシステム36を使って、機械製造メーカでの社内用生産管理システムの構築に関わりました。言語はRPGでした。 1990年ごろから社内にパソコン通信やLANを導入してきました。この頃からネットワーク上でのコミュニケーションに関わっており、1993年以降はインターネットとWindows NTによる社内業務システムの開発、運用を行ってきました。
1996年からはインターネット上でのコミュニティであるNT-Committee2に参加し、全国各地で勉強会を開催しています。
http://www.hidebohz.com/Meeting/
1997年からはIDGジャパンのWindows NT World誌に「システム管理者の眠れない夜」というコラムの連載を始めました。連載は既に7年目に突入し、誌名は「Windows Server World」に変わっていますが、読者の皆さんに支えられて今でも毎月、締め切りに追われる日々が続いています。
連載から生まれたメーリングリストもあります。ご参加はこちら。お気軽にどうぞ。

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