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第17回WEBコラム「開発者のアウェアネス・・・PCと人の動き」

PCネットワークの管理・活用を考える会(大阪) WEBコラム

<著者略歴>
そのご苦労とノウハウ、笑い、叫び?を執筆された、「システム管理者の眠れない夜」連載をWindowsNTWorld誌(現在WindowsServerWorld)において1996年より開始。
現在も好評連載中であり、その人気から製本化・出版されております。
(株)クボタをご退社され、現在、大阪市立大学大学院 創造都市研究科 都市情報学専攻 博士(後期)課程にて日々研究に明け暮れる毎日。

はじめに

PCネットワークの管理活用を考える会/クライアント管理分科会、大阪座長の柳原です。今回は今までとは趣きを変えて、「開発者のアウェアネス・・・PCと人の動き」と題して、最近の私が考えていたことを紹介します。

本コラムの第5回に、私は自身の研究について、以下のように紹介していました。

常々私は、クライアント管理という仕事は、単に技術的側面だけから解決できるものではないと思っていました。またユーザ側は、一人のシステム管理者が頑張ることで解決できることではなく、暗黙的、明示的にかかわらず、ユーザコミュニティの形成と、そこで生まれる相互信頼が必要だと考えています。これを学問的に説明することが、筆者の現在の仕事です。

最近になって、離れた場所同士でのソフトウェアの分散開発環境を検討する機会があり、今回のコラムではそこで考えたことと、上記の研究との関係を紹介したいと思います。

開発エンジニアとテレビ会議

まず、検討した内容を紹介しましょう。東京にあるソフトウェア開発会社が、開発エンジニアの不足を補うために、遠隔地に居住しているフリーランスの開発エンジニアとテレビ会議システムで接続し、円滑に協働できるようにしたいと考えました。

そもそも、共に働いている人たち同士が、今、なにをしているのか?忙しそうなのか?ゆったりしているのか?といった情報は、多くの日本企業で採用されている大部屋方式では、特に意識しなくても、ちらっとそちらを見るとわかりました。もちろんフロアーが違ったり、パーティションで区切られたりしているとわからなくなります。

このような情報、すなわち、それぞれの人が何をしているのか、そしてどのような状況にあるのかを示す概念はアウェアネス(Awareness)と呼ばれており、グループウェアによるコミュニケーションやコラボレーションを考える上で、重要なポイントになっています。

フロアーが違う程度でしたら、必要な時に歩いていけば済む話ですが、電車や飛行機で移動しなければならないような遠方に分かれていた場合、時間的にも移動費用面からも、気楽に話し合うというのは絶望的といえます。

最近までこうした状況は、電子メールによって大幅に改善されたのですが、それでも、言葉や添付ファイルだけの意見交換には限界があります。そこで注目を集めているのがテレビ会議システムというわけです。

テレビ会議システムというと、どうしても会議室に設置され、遠隔会議の時だけ使用するもの、というイメージがあります。しかし今や、ISDNのように従量制で通信費用が発生するわけではありませんから、テレビ会議を24時間つなぎっぱなし、という使い方をしてもかまわないはずです。高速なブロードバンド回線が安価に敷設できる現在では、テレビ会議システムを導入することは容易です。問題は初期の導入コストだけだと考えられました。

遠隔地に居住している開発エンジニア本人と、彼の作業現場にカメラとマイクを向けておきます。それを東京の会社の壁に常時映し出しておくような環境を作れば、仕事上でのちょっとした相談をもちかけたり、冗談を言い合ったりすることができます。もちろん、東京の開発現場の様子にもカメラを向け、これを遠隔地の開発エンジニア側に送ります。このような環境を作ることで、遠隔地同士でも、一体感を持って仕事を進められるのではないかと期待されるわけです。

テレビ会議システムには、専用のカメラや集音マイクなどのハードウェアを使ったシステムもあれば、クライアント側のパソコンに取り付けたWebCamを使うものもあります。専用のハードウェアの場合、カメラが自動的に人物を追いかける機能や、スピーカーから出る相手側の音声をマイク側で拾ってしまうことを防止する機能など、使い勝手の良いものが沢山あります。

問題は山積み

こうした情報を集め、実際に導入できるかどうかを、複数のフリーランスのエンジニアと意見交換してみました。そこで分かってきたのは、様々な問題点でした。

まず、フリーランスの開発エンジニアは、たいていは自宅で仕事をしています。机の周りには、私物も沢山あります。このため、カメラを通じて外部に見せたくないようなものもあります。もちろん、仕事場と趣味の場を分けるようにお願いすることもできるでしょうが、住宅事情の厳しいところでは、それも難しいのです。あるエンジニアの場合、萌え系のフィギュアに囲まれて仕事をしているのです。同じ趣味の友人なら良いけれど、仕事先にまでそれを見られるのは抵抗があります。もちろん、まったく抵抗の無い人もいるでしょうけれど。

また、フリーランスのエンジニアに仕事を依頼するとき、時間で拘束することは稀です。基本的には請け負い契約なので、納期までに一定の品質の成果物を作り上げてくれれば良いのです。このため、彼の元には、異なる発注先からの仕事が並行して流れている可能性があります。そうすると、彼の仕事場に24時間接続のテレビ会議システムを持ち込むのは、無理がある、ということがわかります。

では、こちらが発注した仕事をしている時だけ、テレビ会議を起動するということになりますが、その間にも、別の仕事が割り込んでくるかもしれません。それを映し出してしまうのは、やはり問題があるでしょう。エンジニア本人は気にしなくても、その別の仕事を発注している側にとっては、こうしたテレビ会議システムによって別企業にそのエンジニアが映し出されている、というのは問題になる可能性があります。

このように、テレビ会議システムを使って遠隔地の開発エンジニアを協働できる環境に置くには、まだまだ問題があることがわかります。もちろんそのエンジニアに、専属契約や正社員として働いてもらうのなら、十分にテレビ会議を導入できる可能性はあると思います。

こうして、テレビ会議システムの導入は諦めることになりました。それでは、こうした遠隔地の開発エンジニアのアウェアネスを確保する方法は、他には無いのでしょうか。

そこで筆者がふと思い出したのは、UNIXのwhoコマンドでした。whoコマンドを入力すると、現在そのUNIXマシンにログインしているユーザ名と、彼が動かしているプログラム名が一覧で表示されるのです。おまけにアイドル時間も分かるので、キーボードの前で仕事をしているのか、それとも席をはずしているのかも、ある程度推測することができます。プログラム開発を行うエンジニアの状況を示すアウェアネスとしては、whoコマンドは多くの情報を与えてくれていたのです。

ではWindowsではどうでしょうか。もちろんwhoコマンドはありません。ここでまたふと思いついたのは、クオリティ社のQNDのオプションにあるeX CLT(Client Log Tracer)でした。こうした製品を、開発エンジニアが使うPCに組み込むことによって、彼らがどのようなプログラムを起動したか、などのログを保存することができます。

こうした監視ソフトウェアは、監視ログをサーバに集める機能をもっているわけですが、これをリアルタイムに表示するような機能を付加すれば、立派なアウェアネスになるでしょう。

むろん、この方法も問題はあります。開発エンジニアが使うコンピュータ上では、依頼した仕事以外も行われるでしょうから、そんな作業までリアルタイムに表示されてしまうのは、抵抗があるでしょうね。

そこで考えたのは、依頼した開発作業は、原則的にバーチャルPC上で行ってもらう、という方法です。そしてこのバーチャルPC上での作業状況だけを、リアルタイムに表示させるのです。こうすることで、開発エンジニアがたったいま現在どのようなプログラムを操作していて、逆にアイドル時間なども表示させることによって、エンジニアのおかれた状況が手に取るようにわかるのではないでしょうか。

いかがでしょう。大人数のプログラマを抱えた企業でも、こうしたツールは役にたつかもしれません。クオリティさん、作ってみてはいかがでしょうか?

自己紹介

パーソナルコンピュータとの付き合いは1979年のNEC社製PC-8001から始まっています。
1985年から当時はオフコンと呼ばれていたIBM社のシステム36を使って、機械製造メーカでの社内用生産管理システムの構築に関わりました。言語はRPGでした。 1990年ごろから社内にパソコン通信やLANを導入してきました。この頃からネットワーク上でのコミュニケーションに関わっており、1993年以降はインターネットとWindows NTによる社内業務システムの開発、運用を行ってきました。
1996年からはインターネット上でのコミュニティであるNT-Committee2に参加し、全国各地で勉強会を開催しています。
http://www.hidebohz.com/Meeting/
1997年からはIDGジャパンのWindows NT World誌に「システム管理者の眠れない夜」というコラムの連載を始めました。連載は既に7年目に突入し、誌名は「Windows Server World」に変わっていますが、読者の皆さんに支えられて今でも毎月、締め切りに追われる日々が続いています。
連載から生まれたメーリングリストもあります。ご参加はこちら。お気軽にどうぞ。

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