しばらくコラムの執筆をさぼっていた柳原です。みなさん,おかわりありませんでしょうか?
平成23年度の「PCネットワークの管理・活用を考える会(PCNW)」も,あっという間に終盤です。PCNWの年度は7月に始まり翌年の6月末に終わりますから,あと3ヶ月ほどで年度末というわけで,1年のたつのは早いものですね。(しみじみ)
さて,本年度の研究会では,東日本大震災の影響を大きく受け,事業継続計画(BCP)の見直しに関するテーマが目立ちました。東日本大震災や放射能漏れと対峙しなければならない1年であったわけで,BCPを見直すことは当然の成り行きです。
同時に,スマートデバイスに関するテーマも多く取り上げられました。Apple社の一人勝ち状態をAndroidが急速に追い上げた1年でしたし,スマートフォンやタブレットからの情報漏えいが問題視されたからです。
最初に,BCPの見直し関係について,研究会でのディスカッションから分かってきたことをお話ししましょう。(震災や津波などで事業所が破壊されてしまった場合の対応は除きます)
まず,火力発電所のフル稼働のおかげで,すこし緊迫が薄れてきた感のある「計画停電」への対応問題です。これは昨年の春以降,企業の情報システム担当にとって本当に頭の痛い問題でしたが,今年の夏にも再燃する可能性があります。
今年の冬場は企業での節電と老朽化した火力発電所の稼動が功を奏し,なんとか停電なしで乗り切れたようですが,平成24年3月現在,日本国内の原発54機のうち稼動しているのは北海道電力の泊原発3号機1基だけ。これも5月には定期点検に入りますし,原発の再稼動が許される雰囲気は皆無。どうやら今年の夏は原発ゼロで迎えることになりそうです。
暖房はガスや灯油でも代替可能ですが,冷房は代替手段がありません。本当に節電と火力のフル稼働だけで乗り切れるのでしょうか。やはり,夏場に計画停電が実施された場合や,突然の停電が起こった時に慌てないよう,対応計画を策定しておく必要がありそうです。
昨年,情報システム部門やサーバ類が東京にある企業では,最低限の業務の洗い出しと,そのためにどれだけの容量を持つ非常用発電機を準備すれば良いのかを検討したところが多くありました。
入居しているビルに非常用発電機が設置されているといっても安心できません。そうした発電機はたいてい,消防法への対応(スプリンクラー,火災報知機や誘導灯用)や,建築基準法によって定められたもの(非常用照明・排煙,非常用エレベータ等)がほとんどであって,業務用の電源には対応していません。停電になれば,照明もエアコンも止まってしまいますし,コンセントには電気は来ません。当たり前ですね。
そこで,自社のコンピュータ類を動かすための非常用発電機の導入を検討することになります。ところが現実は厳しいものでした。消防法や騒音規制をクリアできない,燃料の設置場所が確保できない,といった問題に突き当たってしまい,最後は建物の場所そのものを移転しないとどうにもならない,という結論に至ってしまうことが多いのです。データセンターなどでは,建物の選定・設計段階から非常用発電機の設置を計画しているから導入できているのであって,一般の建物に後から導入しようとしても無理なのです。
おまけに,非常用発電機の取り扱いを調べていくと分かるのですが,そもそもこの仕組みに頻繁に起動と停止を繰り返すような使われ方は想定されていないのです。予想もできない停電などの緊急事態に2時間〜4時間程度の給電を行うものであって,緊急事態が毎週のようにやってくるとか,数時間も電源を供給し続けようなどとは考えられていないのです。それは専用の常用発電機の仕事なのですね。
では,ポータブルタイプの発電機(ガソリンなどで動く,アウトドア用)を何台か用意してはどうか?などといった意見も出ました。Amazonでも売っているので,誰でも購入することができます。しかし業務用としては却下です。室内で動かす訳にいきませんし,騒音もばかになりません。おまけに数時間程度しか連続運転できません。こうした発電機はアウトドアで一時的に動かすのが本筋なのです。風通しの良い工場などでは利用価値がありそうです。
というわけで,自社ビル内に常用の発電機を備えるような企業を除いて,自社で電力を賄うことを前提に事業継続計画を作れる会社は限られているはずです。大半の会社は,計画停電であろうと突発的な停電であろうと,受け入れる準備をしておかなければなりません。
まず第一にUPSの整備です。サーバ本体に給電することはもちろんですが,サーバを操作するためのネットワーク系への給電も確認しておく必要があります。停電になった時,UPSのおかげで動いていたサーバをシャットダウンしようとしても,ハブやスィッチなどが落ちていたために操作に時間がかかり,あれよあれよというまにサーバが落ちた,などという笑えない話もあります。
第二に,データバックアップのリアルタイム化です。頻繁に停電が起こる状態になると,1日単位の夜間バックアップなどでは,毎日何時間もかけて復旧などしていれなくなります。このため,停電になる直前までのデータがリアルタイムにバックアップされている必要があります。そうしたバックアップがあれば,万が一,停電後にサーバがダウンしたとしても,迅速に復旧が可能になるでしょう。
第三に,情報システムが停電によって使えなくなったときの,社員の行動計画を作り,できる限り顧客への影響を少なくすることです。その時になって慌てふためいても仕方がありません。停電が起こっていることと緊急連絡先を会社のホームページへ迅速に掲載することも必要でしょう。停電しているからといって,顧客からの電話連絡やメールを受け取れない,というのは問題でしょうから,停電地域以外に移動して,それらを受信できるようにする必要があります。
このように,想像力を働かせて停電に立ち向かう体制を作っていきましょう。基本になるのは「停電になっても顧客に迷惑をかけない」ということです。
パーソナルコンピュータとの付き合いは1979年のNEC社製PC-8001から始まっています。
1985年から当時はオフコンと呼ばれていたIBM社のシステム36を使って、機械製造メーカでの社内用生産管理システムの構築に関わりました。1990年ごろから社内にパソコン通信やLANを導入してきました。この頃からネットワーク上でのコミュニケーションに関わっており、1993年以降はインターネットとWindows NTによる社内業務システムの開発、運用を行ってきました。
1996年からはインターネット上でのコミュニティであるNT-Committee2に参加し、全国各地で勉強会を開催しています。1997年からはIDGジャパンのWindows NT World誌に「システム管理者の眠れない夜」というコラムを執筆し、2009年まで10年以上の長期連載となりました。それらをとりまとめて出版もされています。
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