PCネットワークの管理活用を考える会/クライアント管理分科会、大阪座長の柳原です。 毎年の5月というと、ゴールデンウィークが楽しみな時期なのですが、今年は新型インフルエンザ流行のおかげで、不安な日々を過ごすことになってしまいました。 このコラムが公開されるころには、第1波の流行が終息に向かっていることを祈るばかりです。
なんだか、駄洒落のようですが、今回の新型インフルエンザ騒ぎで筆者が考えたことをお話しましょう。ちなみに、筆者は関西方面在住です。
筆者は大学の非常勤で「リスク管理論」を担当している事もあって、今回の新型インフルエンザ流行のような「リスク」問題には敏感にならざるを得ません。
といっても、医科学分野については素人同然です。 しかし、少なくとも新型インフルエンザが生まれてくるプロセスや感染予防の方法、流行した場合に社会がどう動くかについて10冊以上の文献を読んで情報を仕入れていました。
そして実際に、今回の新型インフルエンザ流行の最新情報については、できるだけ信頼のおけそうな情報源を複数探しておき、相互に裏をとっていました。 こうして早めに正確な情報を入手することで、個人的にはあまり混乱することなく対処できたように思います。
日本では、5月のゴールデンウィークの終盤から、新型インフルエンザに感染しながら発病していない人が、検疫をすり抜けて入国(帰国)することは容易に想像がつきます。 このため、ゴールデンウィーク明けから日本国内で感染が広がるのは、時間の問題と思っていました。
そこで筆者は、4月中旬に通販サイトを使って備蓄用マスクや消毒用アルコールを発注しました。 この時点の通販サイトには在庫切れは無く、すんなり購入することができました。 その後、4月27日にWHOは世界的流行の警戒水準をフェーズ3から4へ引き上げ、さらにその2日後の29日にはフェーズ5へ引き上げました。 同時に日本では、国際空港での機内検疫が始まりました。
筆者は、市場でマスクの在庫がどう動くかについて非常に興味があったので、この情報を見て、4月30日に備蓄用マスクの追加発注をしてみました。 納期がかかる事も予想していたのですが、この時点ではすんなり納入されてきました。価格も通常どおりでした。
しかし予想どおり、5月に入ると、あっという間に市場からマスクが消えていきます。
試しに、ゴールデンウィーク明けに、通販サイトへマスクを発注してみたところ、Webサイト上では注文は受け付けられたのですが、後になって、在庫が無いという連絡が入りました。 つまり、通販サイト側でも、ここまで急速に在庫切れになるとは、予想できていなかったようです。 それでもなんとか、1週間遅れで納入されてきました。もちろん価格は通常どおりです。
こういう時期こそビジネスチャンスだと捉え、ひと儲けしようとする人々も出てきます。実際に、楽天の通販ショップを見ていると、どんどん価格が釣り上がっていきました。
通常は、医療用のサージカルマスクは1箱・50枚が500円以下のはずですが、あれよあれよと言う間に3000円以上で取引されるようになりました。 価格.COMで「サージカルマスク 50枚」という検索をしてみましたら、ほとんどが1000円以上になっていました。 ひどい所ですと、普段の10倍の価格をつけています。釈然としませんが、需要に追い付かないのですから仕方がありません。一種の投機対象になっているわけです。
つまり、それだけ需要圧力が高まっていたわけです。土地転がしならぬ、マスク転がしで儲けている人もいるのでしょうね。 倫理的にはどうかと思うのですが、市場経済に委ねられている以上は、どうしようもありません。
5月16日には、神戸で海外への渡航経験の無い人の感染も確認されました。 つまり、国内で人から人への感染が広がったということです。このため、翌週18日からの一週間、関西方面では休校措置がとられました。
学校という場所が、感染拡大装置であることは関係者の間では常識です。 もちろん生徒には何の罪もないのですが、今回の新型インフルエンザが若年層を中心に感染を広げていることを考えると、これはもう当然の措置でしょう。 迅速に休校を決めた兵庫県や大阪府の対応は評価されるべきだと思います。
一部の高校生がカラオケで遊んでいたりするのを見て、休校に意味があるのか?などといった意見もありましたが、そんなイエロージャーナリズムが好きそうなネタはどうでもいいのです。 大多数の生徒が、学校に集まらなければ、つまり学校よりも拡散した状態に置くことができれば、確実に感染拡大のスピードを落とすことができるのですから。
こういう時期には、単に個人的な印象や妄想を blog などで堂々と語る人が出てきます。 例えば、海外に行ってみたら、そこではマスクをしている人は皆無だった、マスクをしているのは日本人だけで異常だ!などといった言説です。 まあ、個人が何を語ろうがそれは自由なのですし、実際に海外ではマスクをする人が少なかったのかもしれません。 が、世の中にはそれを鵜呑みにしてしまい、自分で判断しない人がいるのが困ったことですね。
マスクを装着したからといって感染を確実に防ぐことができないのは分かっています。 効果があるとすれば、自分自身が実は感染しているにもかかわらず、自覚症状が無いためにウィルスを撒き散らしながら出歩いた場合に、周囲への感染度合いを少なくすることぐらいでしょう。 また、電車の中などで身動きが取れない時に、すぐ近くで咳をされた時には、飛沫感染のリスクを、ほんの少しかもしれませんが低減できる可能性はあるでしょう。 まあ、マスクの効果というのは、この程度のものです。
にもかかわらず、人々が、マスクに飛びついた理由はなんだったのでしょうか。
ニュースなどに流れてくる新型インフルエンザ感染者の数は、単に確認された人数にすぎませんから、実際にどれだけの人が寝込んでいるのかが分かりません。 街を歩いている人や、電車で隣り合わせた人の中で、どれだけの人が感染しているのかは、見た目では分かりません。
このため多くの人は、街の通行人や電ヤの乗客の中で、どれだけの人がマスクをしているかをさりげなくチェックして、それが増えてきたのを見て、そろそろ自分もマスクをしようと考えたのだと思います。そして、その判断の敷居値がある水準を越えた瞬間に、マスクは市場から姿を消したのだと思います。
このように考えると、マスクというものは、人々の新型インフルエンザへのリスク意識が増えているのか、それとも減っているのかを見えるようにしてくれるツールとも言えるのではないでしょうか。
さて、リスクがマスクで見える、という話のオチがついたところで、これからの将来の話をしたいと思います。
新型インフルエンザ流行の第2波が来るとすれば、今年の秋からと予想されています。スペイン風邪などの過去3回のパンデミックでは、春に「スプリング・ウェーブ」と呼ばれる小さな流行が起こったあと、秋から大流行が始まっています。第2波が今年の5月と同様の症状や感染性を示す保障は無く、もっと重い症状が出るものや感染性の高いものになるかもしれません。
また、今回は豚インフルエンザでしたが、1997年には香港で強毒性の鳥インフルエンザが直接人に感染し、死亡させる事件が起きています。 それから10年を経過した現在でも、同様の感染はインドネシア、ベトナム、エジプト、中国、タイなど続いており、致死率は非常に高いのです。
その中には、既に人から人に感染している事例も確認されています。 今年の豚インフルエンザの流行と同様に、近いうちに鳥インフルエンザの流行が始まる可能性は十分あると予想されています。
そこで、企業が何がなんでも考えておかなければならないのは、「在宅勤務」だと考えています。
いったん、感染拡大が起こってしまうと、通常の生活、すなわち通勤電車を使ったり、会社のフロアに人が集まったり、 狭い会議室に集まったりすることが命取りになります。マスクだけでは感染を防ぐことはできません。人が集まることそのものが、感染原因になります。
宅勤務をサポートするICT技術は既にたくさんあるのですが、その運用のノウハウについては、まだよく分からない、 という会社がほとんどではないでしょうか?実際にテストしてみないことには、どのようなトラブルに見舞われるのかが分からないと思うのです。
在宅で使用するPCやストレージからの情報漏えいを防ぐための運用方法など、まだまだ解決していかなければならない問題が山積みでしょう。
できれば、今年の秋までの間にテストしておいたほうが良いと考えているのですが、大げさでしょうか?それは今年の年末になってみると分かるかもしれません。
今回の新型インフルエンザは、関西を中心に感染が急速に広がりました。他の地域ではあまり大きな問題にならずに済んだようです。
この点について、知り合いの編集者(関西出身の東京在住)が、次のようにコメントしていました。
「大阪や神戸で感染者数が短期で急増したのは、しゃべりが多いからじゃないですかねえ」
口は災いの元、とも言いますが、なかなか卓見であると思いました。
パーソナルコンピュータとの付き合いは1979年のNEC社製PC-8001から始まっています。
1985年から当時はオフコンと呼ばれていたIBM社のシステム36を使って、機械製造メーカでの社内用生産管理システムの構築に関わりました。言語はRPGでした。
1990年ごろから社内にパソコン通信やLANを導入してきました。この頃からネットワーク上でのコミュニケーションに関わっており、1993年以降はインターネットとWindows NTによる社内業務システムの開発、運用を行ってきました。
1996年からはインターネット上でのコミュニティであるNT-Committee2に参加し、全国各地で勉強会を開催しています。
http://www.hidebohz.com/Meeting/
1997年からはIDGジャパンのWindows NT World誌に「システム管理者の眠れない夜」というコラムの連載を始めました。連載は既に7年目に突入し、誌名は「Windows Server World」に変わっていますが、読者の皆さんに支えられて今でも毎月、締め切りに追われる日々が続いています。
連載から生まれたメーリングリストもあります。ご参加はこちら。お気軽にどうぞ。
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