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第21回WEBコラム「次のキーワードは「グリーンIT」」

PCネットワークの管理・活用を考える会(大阪) WEBコラム

<著者略歴>
そのご苦労とノウハウ、笑い、叫び?を執筆された、「システム管理者の眠れない夜」連載をWindowsNTWorld誌(現在WindowsServerWorld)において1996年より開始。
現在も好評連載中であり、その人気から製本化・出版されております。
(株)クボタをご退社され、現在、大阪市立大学大学院 創造都市研究科 都市情報学専攻 博士(後期)課程にて日々研究に明け暮れる毎日。

はじめに

PCネットワークの管理活用を考える会/クライアント管理分科会、大阪座長の柳原です。

分科会活動は7月1日に始まり6月末が期末になっています。大阪での分科会はすでに3回開催され、次回(5月ごろでしょうか?)が年度末のまとめ作業になります。あっという間の1年でしたが、特に大阪ではグループワークによる議論の時間を多くとったことで、より充実したものになったのではないかと自負しております。実務で本当に役立つ、ソフトウェアライセンス管理のプロシージャが完成するでしょう。皆さまもお楽しみに。

次のキーワードは「グリーンIT」

さて、どのような業界でも情勢の変化によって新しい課題が生まれてきます。本会でもセキュリティ、情報漏えい、内部統制、そして今年のソフトウェアライセンス管理問題と、IT業界にとってタイムリーな課題を取り上げてきました。次の課題は何か?というと、やはり「グリーンIT」でしょう。すでに多くのポータルサイトでは専門コーナーを用意し、積極的に情報が提供されています。

しかし、ほとんどの話題はデータセンターなどの大規模環境における省電力対策であったり、大手企業でのエコロジーへの取り組みの紹介に終わっています。実際に組織の中で、ITのシステム管理を行っている立場では、何ができるのか、何をしなければならないのかがよくわかりません。今回のコラムでは、そのあたりを考えてみたいと思います。

グリーンIT の基礎知識

まずは「グリーンIT」とは何かを簡単に振り返っておきます。事の発端は情報通信の利用拡大、機器の急増によって、2006年頃からその消費電力が問題になったことでした。特に米国では、巨大化するデータセンターの省電力化が喫緊のテーマになっています。そこで「グリーンIT」という概念が生まれ、現在は日本でも政府が腰を上げて対策に乗り出しています。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071004/283778/
http://www.meti.go.jp/policy/recycle/

「グリーンIT」は省電力に留まる概念ではありません。どちらかというと「エコロジー」に対してIT技術はどう貢献できるのか、という問いかけです。このため具体的には、地球環境に配慮したIT技術やIT基盤そのものと、地球環境保護と資源の有効活用につながるIT利用を目指すことが「グリーンIT」である、ということになります。

・狭義には「ITそのものの環境負荷低減」:ITに関連する機器を省電力化し、リサイクルまで考える。
・広義には「IT活用による環境負荷低減」:IT技術を利用して環境負荷低減を目指す。

つまりグリーンITを実行していくには、IT関連機器そのものをターゲットにするか、もしくはITを活用して、他のエネルギー消費を抑えるなどの方法で環境負荷を減らすことを目指すことになります。

またキーワードは「3R」と呼ばれていますので、覚えておくと良いでしょう。

1. Reduce:減らす、切り詰める、削減する、捨てるものを減らす
2. Reuse:再使用する、再利用する
3. Recycle:再生利用する、還流させる、循環させる

エコロジーの考え方では、1.Reduce, 2.Reuse, 3.Recycle の優先順位で廃棄物の削減するのが良い、と言われています。

まずは消費電力を測ろう

話題になっているデータセンターの省電力化については、既に多くの情報がありますので、このコラムでは取り上げません。もっと小規模で身近な、パソコンやサーバが100台程度の規模で、グリーンITを目指して私たちは何ができるのか、何から手を着けるべきなのかを考えていきましょう。

最初に分かりやすい問題、すなわち省電力化から考えます。照明などを含めた事業所全体としての消費電力や電気代は分かっていても、サーバやクライアントコンピュータがどれだけの電力を消費しているのかをすぐに答えられる人は少ないと思います。最初はITのどこに問題があるのかを探すことから始めます。つまりIT機器の消費電力についての現状分析です。このために必要なのは消費電力計で、市販品が容易に入手できますが、注意してほしいのは、消費電力計にもいろいろあるということです。

「エコワット」は昔から使われていて値段も3000円以下と安価です。しかしこれは、エアコンや冷蔵庫のような大物を図るためのもので、電力量が5W以下(待機電力など)は測定できません。

また、エコワットが測れるのは積算電力量です。つまり、KWHは測れるますが、KWが測れない、ということです。すなわち、IT機器の消費電力がその負荷によってどのように変動しているかが分からないのです。もちろん、細かい消費電力の変動まで計測する必要の無いところもあります。そんなところにはエコワットが良いでしょう。積算電力の計測日をきちんと決め、記録していけば貴重な情報になります。安価ですから計測箇所を決めて、その必要数を購入しておけばいいと思います。

エコワットよりも、もっと詳しくIT機器の消費電力を計測するには、高精度小型電力計(ワットアワーメーター)が必要です。データ収集ソフトがついていれば、パソコンへ記録も簡単にとれ、CSV形式でのデータ取り込みができます。110Vまでのものや220Vまで対応したものもあり、3〜4万円ほどです。
このように、一言で消費電力を測るといっても、計測の目的によって、エコワットとワットアワーメーターを使い分ける必要があります。
できればこのワットアワーメーターを2台入手します。1台はサーバ系などへ電力を供給している大元で連続測定します。もう一台は、個々のIT機器に対して、計画的に計測を行っていきます。

サーバが10台あったとしましょう。これを1台ずつ測っていく必要はありません。現状分析の目的は、どこに問題があるのかを検討するためです。まずは明らかに大きなサーバから計測を始め、小さなサーバであれば、数台の電源コンセントを一箇所にまとめてしまい、そこを計測すればいいでしょう。

ユーザに配備しているクライアントPCの場合、その1台1台を計測していても、分析が困難になるだけです。こんなところはエコワットで計測しましょう。

たとえばある部署に、ノートパソコンが5台、デスクトップが5台あるのなら、電源を供給しているコンセントを見直して、ノートパソコン5台分の消費電力と、デスクトップ5台の消費電力を、区分けして計測します。エコワットは100V15Aまでしか使えませんから、それを超えないようにまとめることが必要です。あとはそれぞれの平均消費電力量を計算すればいいのです。

測定期間をどう決めるかは、最も悩むところです。たとえば、月末月初や期末になるとクライアントPCの稼働率は上がるかもしれません。そうではない職場もあるでしょう。このあたりは、一律に決めることはできません。現場の実情を計測するために、必要な測定期間を決める必要があります。また、休日出勤が常態化しているような職場であれば、クライアントPCの稼動日数を、ユーザに記録しておいてもらう必要が出てきます。

たくさんの着眼点

コンピュータ類の消費電力についてのデータが集まってくれば、自ずと現状は見えてきます。デスクトップPCはノートパソコンに入れ替えていくことになるでしょうし、退社時には必ず電源を落としていく習慣をつけるよう、指導することも必要になるでしょう。また、IT機器の調達から廃棄までをライフサイクルとして管理する時に、エコロジーの観点を加えるだけでも、さまざまなテーマが浮かび上がってくるでしょう。

こうして、現状分析を最初に実行すれば、世の中に沢山紹介されているさまざまな技術・・例えばサーバの仮想化や、シンクライアント、シン・プロビジョニング、vPro技術の積極的な採用など・・から、何を導入していけば良いのかも判断できるはずです。

広い意味では、テレビ会議などを活用して人や物の移動を少なくすることもグリーンITのテーマになります。グリーンITではどうしても視点がハードウェアや消耗品に行き勝ちですが、ソフトウェアを積極的に活用することで対策できることも沢山あるわけです。

そう考えると、既に10年以上の歴史を持つ、SCM(Supply Chain Management)や、ERP(Enterprise Resource Planning)も、事業全体の効率化を狙っていますから、広義のグリーンITにあたります。既に稼動しているのであれば、グリーンITの視点からシステムを見直すのも良いでしょう。稼動暦の長いシステムほど、少しの改造で帳票出力を廃止できたり、実は不要になったサブシステムがあるかもしれません。

省電力でCO2は削減できるのか?

さて、グリーンITについては注意しておいてほしい点があります。それは、グリーンITが企業のイメージアップのための道具になりつつあることです。グリーンというと森を想起しますし、クリーンという言葉とも音が重なります。このため、企業としては「グリーンIT」活動を推進することは、ある意味では、イメージ戦略、ブランド戦略の一環ともなります。もし、組織のトップからグリーンITが方針として打ち出されたとしても、その本当の目的は何なのかを見極める必要があります。

省電力というテーマはCO2削減を狙ったテーマとして、とても分かり易いのですが、実際にはCO2削減ではなく、単に電力経費の削減を狙っているのかもしれません。削減された費用は、他の企業活動に回され、そこで新たなCO2を発生させるかもしれませんね。家庭用の冷暖房器具ひとつをとっても、いくら省電力できるといっても、それは電力会社への支払い金額が減るだけであって、直接CO2が削減できます!とは、簡単には言えないはずなのです。

そんなわけで、省電力=CO2削減、という単純な図式ではない、ということです。電力への支払いが少なくなったお金が使われることによって、そこでまたCO2は発生します。しかし現代は、それがコマーシャル用のメッセージとして流通してしまっている、ということを覚えておいてほしいと思います。

自己紹介

パーソナルコンピュータとの付き合いは1979年のNEC社製PC-8001から始まっています。
1985年から当時はオフコンと呼ばれていたIBM社のシステム36を使って、機械製造メーカでの社内用生産管理システムの構築に関わりました。言語はRPGでした。 1990年ごろから社内にパソコン通信やLANを導入してきました。この頃からネットワーク上でのコミュニケーションに関わっており、1993年以降はインターネットとWindows NTによる社内業務システムの開発、運用を行ってきました。
1996年からはインターネット上でのコミュニティであるNT-Committee2に参加し、全国各地で勉強会を開催しています。
http://www.hidebohz.com/Meeting/
1997年からはIDGジャパンのWindows NT World誌に「システム管理者の眠れない夜」というコラムの連載を始めました。連載は既に7年目に突入し、誌名は「Windows Server World」に変わっていますが、読者の皆さんに支えられて今でも毎月、締め切りに追われる日々が続いています。
連載から生まれたメーリングリストもあります。ご参加はこちら。お気軽にどうぞ。

「システム管理者の眠れない夜」イメージ「システム管理者の眠れない夜」イメージ「新・システム管理者の眠れない夜」イメージ

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