PCネットワークの管理活用を考える会/クライアント管理分科会、大阪座長の柳原です。
本会の平成17年度が終わりました(会の年度は7月に始まり6月に終わります)。筆者は平成14年度の終わりから参加しておりますので、これでまる3年が過ぎたことになります。毎回30人弱の参加者で、その半数程は熱心な常連メンバーです。このため、あまり堅苦しい雰囲気にならず、ホンネに近い議論が行われています。この議論が、筆者にとってはとても勉強になります。まだまだ分科会の座長を降りるわけにはいきません。
今回は関西での分科会の進行や雰囲気を、すこしお伝えしておきましょう。
まず、招待講師からの講演が行われます。これが1時間ほど。もちろん講師の方が担当しておられる製品の紹介も若干は含まれていますが、基本的にはその技術分野に関する基礎知識や、カタログには書かれていない実際の問題点などが解説されます。カタログや雑誌などの表面的な情報からはとても分からないような、業界の裏話も出てきます。
10分ほど休憩したあとは、質疑応答とメンバー全員でのディスカッションに入ります。時には、講師の方も答えに窮するようなするどい突っ込みが入ることもありますが、そうした熱い議論は、一般のセミナーや講演会には無いものでしょう。もちろん筆者は座長ですので、講師と参加者の両方に突っ込みを入れます。
毎回、議論は尽きないのですが、あっという間に17時。会場をあとにして、近くのお店へ移動。ビールで喉を冷やしながら、講師を囲んで盛りあがります。ここでまたもや、よりホンネに近い裏話なども出てきます。これが楽しくて参加している、という少し不純な動機(しかし、確かに楽しい)のメンバーもちらほら。
さて、今回の本題です。
これからの情報システムは、あらゆる局面でバーチャル化*が進行すると筆者は考えています。その一方で、リアルでなければならない仕事もあります。そして、システム管理者には、バーチャルとリアルを適切に使い分ける技術が要求されることになると考えています。
* ここで言うところのバーチャル化とは、システム管理者が現物を扱うような、実作業を伴う仕事が、デジタルデータと命令に置き換わることを指しています。このため、実業務をアウトソースすることも含めています。
それは何故か。今回はこの点をお話しましょう。
クライアントPC準備のアウトソース
10年ほど前の話です。当時の私は、ある企業の中でWindowsを中心にしたサーバやクライアントの利用環境を構築、運用していました。何百台かのクライアントPCを運用していると、毎月のように故障が起こったり、なんとなく調子が悪い、という状態になります。
最初の頃は、個々のPC上にインストールされたソフトウェアは完全に統一されていませんでした。このためハードディスク装置が故障したり、ファイルシステムがクラッシュすると、ユーザから元の環境をヒアリングしながら再インストールすることになります。この作業工数には泣かされました。
その後、西暦2000年問題を乗り越えるために、クライアントPC上のソフトウェアを、オペレーティングシステム、アプリケーションの全てを統一しました。もちろん、何ヶ月もかかる大作業でしたが、そうしないと、管理しきれないからです。
すると、このクライアントPCの構成をデータ化すれば、クライアントPCのインストール作業やアップデート作業をアウトソースすることが可能になりました。つまりアウトソース先に、データを渡して作業を指示できるわけです。また、インベントリ管理ソフトウェアを導入して、ちゃんと目論見どおり、環境が統一されているのかどうかを確認することも容易になりました。
当時、クライアントPCの環境をユーザに提供する仕事は、システム管理者達の、いわば肉体労働だったのです。その仕事を、構成データと共にアウトソースすることによって、システム管理者から見てバーチャル化することができたことになります。
サーバのバーチャル化
筆者が使っていた10年前のサーバは、まだラックマウントではなく、フルタワーケースでした。10台以上のサーバのうち、約半数はケースやマザーボードを購入して組み立てた、言わば手作りのものです。こうしたサーバは、電源やCPUファンが壊れたり、その影響でハードディスクがクラッシュしたりと、システム管理者にとっては気の休まらないマシン達でした。何度、ケースの蓋を開けて分解したことでしょう。
しかし、ユーザの利用度が上がってくるに従い、こうした信頼性の低いサーバは、メーカ製のサーバ専用機にリプレースされていきました。リプレースされる度に、それまでさんざん故障してくれた自作サーバたちが愛おしく思えたものです。
ところがリプレースしてみて分かったのは、さすがにサーバとして設計されただけのことはあり、とにかくほとんど故障しない、ということです。電源や冷却ファンは多重化されていますし、ハードディスクは適切に冷却されるよう、ケース内部での配置もよく考えられていたと思います。
もちろん、購入後に内部を確認するため、最初の1回だけは蓋を開けましたが、それからはもう分解することはありませんでした。ほとんどのサーバ専用機は、4年から5年の間、連続稼働に耐えてくれました。当然、筆者はそのサーバ内部の構造は忘れてしまい、今でもあまり思い出せません。
つまり、信頼性の高いサーバ専用機を導入することによって、サーバというハードウェアはブラックボックス化していったと言えるでしょう。内部の構造に詳しくなくても、それなりの信頼性と能力を発揮してくれるのです。万一故障した場合には、メーカによる手厚い保守が行われます。システム管理者としては、サーバの役割や割り当てられたアドレス、サーバアプリケーションの動きに注力できるようになったのです。
現在では、このサーバハードウェアそのものですらバーチャル化できます。マイクロソフト社からはVirtual Server 2005が無償提供されており、VMware、Inc.が提供しているVMware Serverも、無償で使うことができます。
こうした仮想化ソフトウェアは、高性能で信頼性の高いサーバ上に仮想的なサーバハードウェアを作り、そこで複数のオペレーティングシステムを稼働させることができます。(仮想化の手法にはいくつかあるのですが、ここでは省略)
こうした環境を導入すると、サーバはブラックボックスを通り越して、完全にバーチャル化してしまいます。万一、クラッシュしたとしてもバックアップからファイルを書き戻すだけなので、ハードウェアの相手をする必要がなくなります。
現実的なThin Client
筆者は本稿で「バーチャル化」という言葉を少し乱用していますが、システム管理者の立場から言うと、とにかく、壊れたハードウェアと格闘したり、ユーザのところにクライアントPCを運び込んだりするような肉体労働から解放してくれる手法が、これからは必要だと思うのです。
ハードウェア故障への対応仕事は、システム管理者にとっては突発対応や残業、休日出勤を余儀なくされるので、よほど使命感の高い人でない限り、モチベーションを維持できません。そんな仕事の後継者を育てたいと思っても、誰も後継者になりたいと思わないでしょう。そうした状況を打開していくには、あらゆる局面から「バーチャル化」を推し進める必要があります。
同時に、もし故障などが起こった時には、現物の機器を回収することなく、それがどのようなスペックで、どのようなソフトウェアを動かしていたのかといった情報を、事前に自動収集しておく仕組みが求められます。この情報があれば、現物を調べることなく、すぐに代替品の手配が可能だからです。
多くの企業での事務用クライアントPCには、ローカルサイドにハードディスクは不要です。こうしたクライアントPCについては、今後はThin Client化が進んでいくと思います。情報漏洩対策や、クライアントPC上の環境の統一を考えれば、WindowsでもThin Client化の流れは止められないと思います。
とはいっても、既に購入してしまっているクライアントPCや、4年前後のリース契約で導入しているPCが存在する場合、すぐに捨ててしまったりリース契約を破棄することも難しいですから、現有のPC上にThin Clientを実現する、軽い専用オペレーティングシステムか、もしくはWindows上でThin Clientをエミュレートするソフトウェアが登場するのではないでしょうか。
こうしたソフトウェアを使いながら、古いクライアントPCを徐々にThin Clientにリプレースしていくのが、最も現実的なのかもしれません。サーバ側であるWindows Terminal ServerやMetaFrameも、徐々にライセンスを増やしつつ、負荷に応じて処理能力を増やしていけばいいでしょう。3年間ほどの移行計画を作ることで、あなたの職場もThin Clientにリプレースすることができるはずです。
雑誌などに紹介されるThin Clientの記事には、1000台を超える大学の演習室や、大手企業での事例がよく紹介されています。しかし、これらは特殊事例と見るべきだと思います。一般企業内でのクライアントPCのリプレースは、一気に実行するのは困難です。上記のような3年計画で、じっくり、着実に移行させるのが現実的ではないでしょうか。
パーソナルコンピュータとの付き合いは1979年のNEC社製PC-8001から始まっています。
1985年から当時はオフコンと呼ばれていたIBM社のシステム36を使って、機械製造メーカでの社内用生産管理システムの構築に関わりました。言語はRPGでした。
1990年ごろから社内にパソコン通信やLANを導入してきました。この頃からネットワーク上でのコミュニケーションに関わっており、1993年以降はインターネットとWindows NTによる社内業務システムの開発、運用を行ってきました。
1996年からはインターネット上でのコミュニティであるNT-Committee2に参加し、全国各地で勉強会を開催しています。
http://www.hidebohz.com/Meeting/
1997年からはIDGジャパンのWindows NT World誌に「システム管理者の眠れない夜」というコラムの連載を始めました。連載は既に7年目に突入し、誌名は「Windows Server World」に変わっていますが、読者の皆さんに支えられて今でも毎月、締め切りに追われる日々が続いています。
連載から生まれたメーリングリストもあります。ご参加はこちら。お気軽にどうぞ。
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