2024年10月7日
2024年10月7日
この上期はITに関係する衝撃的なニュースが二つあった。
一つはグリコの基幹システムの更新の失敗によって主要商品の販売ができずに大きな損失が出たということ。もう一つはKADOKAWAへのサイバー攻撃で、ニコニコ動画などの運営がストップしたということ。
どちらもITに関するトラブルで、会社の経営に大きなダメージを与えた。こんなに経営に大きなダメージを与えたITのトラブルはあまり記憶がない。
デジタル、デジタルと叫ばれているので、とりあえずDX部門を新設し、表向きにはDXをやるふりを続けていれば、何とか凌げると高を括っていた経営者も、これにはびっくりしたのではと思う。そしてITに対してちゃんと考えなければならないという危機意識が大きく芽生えたのではないだろうか。
ITやデジタルの舵取りを間違えれば、最悪は会社を潰すことにもなりかねないのだから。逆にデジタルをビジネスにうまく活用できて顧客への価値を高めるようにビジネスを変革できれば、競合他社との競争にも勝てる。
いずれにせよ、ITやデジタルの活用はますます企業の経営にとって非常に重要なものになってきて、昔のように「俺はITやデジタルはわからん」と言って自慢(?)していたような社長では、その企業は生き残れない時代になってきた。
そんな中で企業のIT部門が担う使命はますます大きくなった。そしてIT部門は経営層に、ビジネスにとっていかにITが重要で、どんな価値を生み出すことができるのかということ、そして現時点でのITのリスクも含めた現状を正しく伝え、今後何をやるべきかということを共有してもらわなければならない。IT部門と経営層とでITに関して同じ共通認識を持つことができるのは素晴らしいことだ。
そのためにも、IT部門は経営層とうまくコミュニケーションしなければならない。
そんなIT部門の人たちにお薦めしたいのがビジネスアナリシスである。
ビジネスアナリシスとは、ITの導入において、ビジネスの真のニーズを引き出し、ITの要件に落とし、実装はPMやエンジニアに任せるものの、受け入れ環境を整備しITが導入された後、目指した価値が実現されているかどうかを評価、もし駄目ならフィードバックして狙いとする価値実現を目指すことである。いくら実装したソフトウェアが素晴らしい出来であっても、その要件定義の質が悪ければ使い物にならない。生成AIの活用で、ソフトウェアの実装の自動化が進むにつれ、ますます上流の要件定義が重要になってくるのは明白だ。そして、ビジネスアナリシスのスキルや知識はビジネスを可視化して、ビジネスにおけるITやデジタルの価値をわかりやすく伝えるのにすごく役立つのだ。経営層に話をするためには、ビジネスの視点が欠かせないからだ。
ちなみにDXを推進する上でうまくいかないケースの多くが、AIやデータ基盤などのツールを導入することが目的になってしまい、真にビジネスとして価値を生み出すために何をやらなければならないのか、何をやるべきなのかということがきちんと見えていないケースが多い。そういう場合にこそ、ビジネスアナリシスが必要で、DXを推進できるDX人材とはまさにビジネスアナリストのことだと思う。
IPAのDX推進の人材類型に「ビジネスアーキテクト」という言葉が出てよく話題に上がるが、IPAの定義を読むと、この「ビジネスアーキテクト」は海外では「ビジネスアナリスト」と呼ばれているビジネスアナリシスの知識とスキルを持った専門職のことなのだ。
海外では「ビジネスアーキテクト」と呼ばれる職種もある。ビジネスの構造をさまざまな形で可視化し、全社的な観点でそうした事業構造の管理と変革活動の企画を行う手法を「ビジネスアーキテクチャ」と呼び、そうした仕事をする専門家を「ビジネスアーキテクト」と呼んでいるのだ。日本企業で言えば、経営企画部や経営戦略部などが担うべき仕事なのだが、日本では明確に意識してこうした仕事をしてる部門はほとんどないのではと思う。海外ではビジネスアナリストが経験を積んでステップアップし、ビジネスアーキテクトになることが多い。
日本ではまだまだビジネスアナリシスが認知されていないが、これからのDX推進にはビジネスアナリシスは欠かせないし、経営層とのコミュニケーションにも大いに役立つはずである。
IT部門の人たちには、この機会に、ぜひビジネスアナリシスの勉強をしていただきたいと切に思う。
寺嶋 一郎 | PCNW幹事長 TERRANET 代表 |
1979年3月に東京大学工学部計数工学科卒業。その後積水化学工業に入社し制御や生産管理システム構築に従事。MIT留学を経て、(株)アイザックの設立に参画、人工知能を応用した積水化学の工業化住宅のシステム化に貢献する。
2000年6月に積水化学に戻り情報 システム部長として積水化学グループのシステム基盤の標準化やITガバナンスの改革に取り組む。2016年3月に退職し、現在、TERRANET代表。
〒102-0083
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TEL:03-5275-6121 E-mail:bunkakai@pcnw.gr.jp
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