情シス・ルーキーができるまで

2024年7月11日

※本コラムの内容は、ルーキー氏の勤務先の了承を得て行っています。

「情シスって、どうやって仕事覚えたでござるか」
まだ肌寒さの残る3月、ダイニングで日本史の番組を見ていた人が呟いた。我が家には、情シスを生業としていた生き物がいるにもかかわらず、この質問である。

前日まで参加していた「SEC道後」の現地で買い込んだ瓢柑(ひょうかん)をのどに詰まらせそうになりながら、私は、「それ、今訊く?」の一言を、甘酸っぱい果実と一緒に飲み込んだ。

呟きの主は、夫である。ここでは夫氏と呼ぶことにする。夫氏は、最近、勤務先で社員教育や海外社員の研修受け入れに携わる機会が増え、それまで接する機会がなかった部署の若手と話すようになったとか。そして、その中の一人が、システム部門への転属を内示されたものの、その事業所内で初めてかつ唯一のシステム部門配属であり、上下左右何も分からない状態となり、夫氏を頼ったらしい。しかも、誰とでも仲が良い海外支社からの研修生の「夫氏のパートナーがつよつよらしい」という謎コメントがその根拠とか。(しかし、夫氏はIT音痴を具現化したようなアナログ人間である。)

若手社員に、自社の情シスではなく、他社の元情シスを頼らせた夫氏には、ほんの少し呆れたけれども、「ぼっち情シス」界にいきなり放り出された若者を冷たくあしらうのは、自分の経験を思えば絶対にしたくない。隣の席に質問できる相手もおらず、書棚に使える雑誌や本もなく、TIPSのサイトもどれがいいのか分からず・・・しかも、彼女以外のシステム部門は全員が東京配属で少し年上の男性社員ばかり。社内の教育制度も追いつかない。その会社のやり方への疑問はあるけれども、手を差し伸べない理由にはならなかった。

そこで、自分が常に手元に置いている幾つかの書籍をリストにまとめ、うち2冊をプレゼントすることに。あわせてQiitaやIT企業のブログのURLをあつめ、いくつかをQRコードにして、「ここで情報収集!」というシートも準備。その中にはもちろん、PCNWのサイトの情報も。その他にも、「(私費・公費で分けるならば)公費で受けたほうがよい研修」、「楽しみ半分で行っても大丈夫な場」等も紹介。コラムの「システム障害・サイバー攻撃で心が折れないために」の元の原稿と、ちょっとした手紙もセットして、情シス・ルーキーへのプレゼント一式が出来上がり。数日後には本人の手元に届いたようである。

それからしばらくして、プレゼント一式を受け取った本人から夫氏が聞かされたのは・・・・
・社外研修を受けられることになった
・書籍は買ってもらえそう
・分からないところを、先輩と画面共有して見てもらえることになった
・奥様、ひょっとして、有名な人じゃないんですか?
・何も悪いことしないので、困ったら、伝言お願いしてもいいですか?(どういう意味)

最後の2つに、夫氏がどう答えたのか分からないけれども、その翌週には、最初のメモが届いた。メモの答えを、まるで小学生の連絡帳のように夫氏に預け、その翌週にはシングルサーブのコーヒーの箱が届いた。そこで、「今度からはメモだけのやりとりでOK。頑張りますじゃなくて、頑張らなくても何とかなるのを目指しましょう」と返した。

その後も、大きな伝書鳩はたまに伝言を運んでくれ、先月末には「研修終わりました!」という一言が届いた。今もまだ、色々ドジったり、分からなくなったり、思うように動かせなかったりということは続いているらしい。でも、今は、外部研修の同期もいれば、オンラインで頼れる相手もいる。伝言の中身も、そろそろ、大きな伝書鳩には難しくなってきた。

どうやら、私は、無事に「情シス部門の入り口」まで、送り届けられただろうか?

実は、彼女に自分が託したのは、異動していきなりぼっち情シスだった自分が、誰かに頼りたかったこと、手元に置きたかった資料、かけて欲しかった言葉をアップデートしたものだった。当時、操作の一つ一つの手順ではなく、「考え方」と「伝え方」、「情報の探し方」をまず知りたかった。「外(コミュニティ)に出ていくきっかけ」が欲しかった。この4つが、今の自分の根幹になっていると実感しているからこそ、その意味を伝えたかったのである。

実際の勤務地は少し離れていて、夫氏がシャイなのもあって、彼女と直接の対面は果たせていないけれども、多分、今の彼女なら、外の勉強会に出てきても「熱心な新人情シス」と思ってもらえるはず。いっそ、気づかず出会って、談笑するほうが楽しいかもしれない。

情シスへようこそ

PCNW運営委員より寄稿

「ヤバいシステム」に遭遇しがちな関西在住の元情シス。元情シスのはずなのに、現在の業務もほぼ情シス。
OWASP-ZAPとBurp Suitの使い手。特技は定型&定形外の郵便物の重さを手に乗せて10g単位まで測ること(小包は無理です)

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