2019年8月9日
2019年8月9日
先日のPCNWの大会でのパネルでは情シスが如何に生まれ変わるのかというテーマで議論した。DXが叫ばれ、これほどITがビジネスに必要になってきたのに、あろうことか「情シス不要論」が出てきたり、デジタル化がIT部門を無視して行われていることも多い。それは経営として現状のIT部門に不満を持っている表れでもある。
確かに、保守的で、何事も受け身、現場に出ず閉じこもりがちとなるIT部門が多いのは確かである。経産省のDXレポートで示されたように、80%以上の仕事が現行システムの保守・運用にかかりっきりで、新たな取り組みがほとんどできないIT部門。事業部門が「こんなことをやりたいのだが」と言われても、セキュリティのルールなどを盾にNOとしか言わないIT部門。こんなIT部門ではDXを先導できないと言われているのだ。
大会の基調講演に登壇されたセゾン情報の高橋氏によれば、2015年に彼が率いるIT部門もDXレポート同様、既存システムの運用・保守がほとんどで、新たなITの取り組みが4%に過ぎなかった。ところが3年後の2017年にはなんと73%までに増やしたという。一体どうやって3年間でIT部門を変えれたのか。ここにIT部門が生まれ変わる大いなるヒントがあるのではないか。
講演によると彼は4つの手を打ったという。
まず一つ目はクラウド化だ。クラウドの導入は、スクラッチでシステムを作るのではなく、SaaSなどのパッケージをAPIを介してうまく繋げて使うという新たな文化の導入でもある。そういった文化が定着すれば、新たなニーズに柔軟に、しかも高速で対応できる。
二つ目が、エコシステム化だという。一見わかりにくいが、EAIと呼ばれるデータ連携ツールなどを活用して個々のシステムを疎結合で繋ぎ合わせることで柔軟な仕組みを作ることだ。EAIは個々のシステムのデータにアクセスし、必要なデータ変換などを自動的に行ってくれる。ここにBIツールを使えば、個々のシステムに手を入れて新たな帳票を作るような作業が一切なくなったという。
そして三つ目がBPR、すなわち業務改革だ。業務プロセスを見直し、不要な業務はやめて効率化を図る。こうした3つの打ち手で、ERPを含む既存システムの保守・運用、改善などの業務がほとんど無くなったという。こうして生産性を上げたことで、新たな面白い取り組みを行えるようになったという。
さて、最後の四つ目の打ち手は新オフィスへの移動を機に行った働き方の改革だった。時間と場所を選ばない柔軟な働き方を導入し、内階段で繋がれた実質ワンフロアのレイアウトやオープンスペースでの会議室などで、社員のコミュニケーションの活性化を図る施策を打ったのだ。それに加え、それまで受け身的だったIT部門のメンバーがわくわくして働けるように、徐々に組織文化を変えていったという。メンバーのそれぞれが内発的な動機で新たなチャレンジができるように、心理的安全性を担保する環境を作り、外のセミナーなどにも積極的に参加する文化に変えてきたという。
最初の3つの打ち手を推進していくためにも、4つめの働き方や組織文化を変えていかなければならない。逆に人や組織の問題が一番重要かもしれない。組織文化を変えるのは難しいが、そこに粘り強く取り組んでいくことで、IT部門は新たに生まれ変わることができるのではないだろうか。
人と組織に焦点をあて、わくわくして楽しく仕事ができる働き方に変えていくことで、日本企業の情シスが生まれ変わり、DX推進の先導役となることを切に願いたい。
寺嶋 一郎 |
PCNW幹事長 TERRANET 代表 |
1979年3月に東京大学工学部計数工学科卒業。その後積水化学工業に入社し制御や生産管理システム構築に従事。MIT留学を経て、(株)アイザックの設立に参画、人工知能を応用した積水化学の工業化住宅のシステム化に貢献する。2000年6月に積水化学に戻り情報 システム部長として積水化学グループのシステム基盤の標準化やITガバナンスの改革に取り組む。2016年3月に退職し、現在、TERRANET代表。
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