喜びにあふれる職場を作ることこそが働き方改革に繋がる

2018年1月23日

先日「JOY.Inc」の著者、メンロー・イノベーションズ社のCEOのリチャード・シェリダン氏が来日した際、講演を聞いてきた。彼の会社はシステム開発を行うIT会社で、「働く喜びの追求」を経営の柱にして、米国で最も幸せな職場と言われるようになった。そこでは、職場に喜びをもたらす手法を導入、顧客も巻き込みながら良いプロダクトを作り、社会にも貢献している会社である。

シェリダン氏はメンロー・イノベーションズ社を立ち上げる前は、普通のIT会社に勤めていたという。そこでは、いつもプレッシャーを感じながら、長時間労働が続き、仲間ともぶつかりながら「やらされ」感の満載の仕事をやっていたとのこと。だが、同じシステム開発をするのであれば、もっといい方法があるはずということで、この新しい会社を作ったのだ。

さて「喜びの会社」を作った彼が採用した手法とはどんなものなのか。


<講演の様子>

まずは、会社の組織として階層がないフラットなものとし、管理は各自がセルフ・マネージメントする、すなわち上司が存在しない組織なのだ。最近、ホロクラシー組織とかティール組織とか言われる今までの階層型ではない新たな組織形態が注目を浴びているが、まさにそういった組織を実際に作って成果も挙げているのが彼の会社だ。シェリダン氏曰く、「我が社に管理者はいらない。ただ新たな試みを先導してくれるリーダーは何人いてもいい。皆がその方向についていくかどうかは別だが・・・」。シェリダン氏自身、良いと思われる手法はまずやってみる。なかなか効果が出なくとも、数ヶ月は続けてみるという。そして良さそうであれば定着させていくのだそうだ。

特筆すべきは、ペア・プログラミングとスクラムといったアジャイル開発の手法を徹底的に実践し、ソフトウェア開発の仕事をわくわくするものに変えているのだ。面白いのは、ある期間に開発すべき要件を確定していく際に、コンピュータは一切使わず、紙とペン(手書き)で行っていること。そして、定期的に開発の進捗と状況を報告する顧客との合同イベントを開催、そこでは顧客をチームメンバーが取り囲み、顧客の望んだシステムになっているのかどうかを徹底的に議論、検証する。こういったシステムの開発要件や検証を自分たちで自律的にワイガヤで行うことが、チームの結束と仕事のやりがいを高めているのだ。

そして、彼らのオフィスは地下駐輪場を改造した仕切りのない大部屋で、ペア・プログラミングの相手やグループが変わる度に、好きなところへ移動しながら仕事をするという。社員同士とはメールやチャットは使わずに、直接話をするので、結構騒がしいらしい。驚くべきは、その仕事場に従業員の子供も連れて来れるのだ。預けられない赤ん坊は、皆で交代で世話をするという。ペットの大きな犬もちゃんと居て、社員から可愛がられている。

さらに、仕事内容や進捗、各自の給料(もちろんCEOも)までオープンにしている。何階層かの給与レベルがあるそうだが、昇給は、希望した本人含め6人でランチをして異論がなければ昇給できるのだそうだ。トップダウンではなく、社員皆で納得して決めていくようなスタイルだ。

こう見てくると、真に「働き方改革」をやるのなら、人を大事にして、喜びに満ち、楽しく働くことが出来る職場を用意して、生産性を高めるべきなのだ。セルフ・マネージメントを基本としたフラットな組織、仕事の価値を共有し、チームで互いに切磋琢磨しつつも助け合えるような職場。そうした環境こそが、社員に安心と成長の機会を与え、働く喜びと素晴らしい成果を生み出すのではないだろうか。

<お断り>
本稿の内容は著者の個人的見解であり、所属企業及びその業務と関係するものではありません。

寺嶋 一郎 PCNW幹事長
TERRANET 代表

1979年3月に東京大学工学部計数工学科卒業。その後積水化学工業に入社し制御や生産管理システム構築に従事。MIT留学を経て、(株)アイザックの設立に参画、人工知能を応用した積水化学の工業化住宅のシステム化に貢献する。2000年6月に積水化学に戻り情報 システム部長として積水化学グループのシステム基盤の標準化やITガバナンスの改革に取り組む。2016年3月に退職し、現在、TERRANET代表。

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