2017年7月28日
2017年7月28日
今年度のPCNWの大会のテーマは「もうクラウドなしでは生き残れない!」というテーマで、筆者がモデレーターを務めパネルディスカッションを行った。そこで今回はパネルでの議論を踏まえてクラウドについてお話したい。
筆者もクラウドをメディアが取り上げだした頃は、これもバズワードだと思ったものだ。当時はクラウドの定義も曖昧で、データセンターにある仮想化されたサーバーをインターネット越しに活用することもある意味クラウドだといえるなど勝手に考えていたものだ。
その潮目が変わったのが、東日本大震災だ。震災を機に、IT-BCPをどうするかという議論が湧き上がり、バックアップのデータセンターにクラウドを活用する動きが広まった。筆者も現役時代に、積水化学の情報系基盤のBCP対策を進めるためにAWSのIaaSを活用した際に、クラウドの可能性を認識した。実際に使ってみなければ、クラウドの本質はなかなかわからない。
よく中小企業の経営者はクラウドに対し、セキュリティが心配だとも聞く。利用者としてクラウド業者の責任範囲外のセキュリティ対策をきちんと行う必要があるのは当然だが、クラウドのデータセンターとしての基盤は驚くほど安全だ。考えてみて欲しい。お金を自宅でタンス預金をするのと、銀行へ預けるのと、どちらが安全でだろうか。あの三菱UFJ銀行もAWSの採用を発表した。セキュリティを盾にクラウド導入に反対する時代は終わったのではないだろうか。
また単にクラウドに移行してもコスト削減にならないともよく聞くが、どうだろうか。例えば負荷変動が多い場合などは、最大負荷に応じたハードを用意するのに比べ、従量制を活用したクラウドはコスト削減に非常に有効だ。使わないときに止めれば費用はかからないし、一時的にリソースを使うビッグデータの解析や、後で要らなくなる本番同様の開発環境構築などはクラウドならではのメリットを最大限活用できる。さらには、数年おきに繰り返されるハードの更新作業がなくなることで、自社のインフラの運用業務が変わり、その結果としてTCOの低減を図れるケースも多い。
グローバルで海外子会社のシステムを統合化しようとすれば、クラウドでなければ無理という話はよく聞く。そして、デジタルビジネスにはクラウドは必須だ。多くの新たなビジネスモデルを引っさげたスタートアップ企業はクラウドなしでは出現しなかったといっても過言ではない。いわゆるSoEと言われる領域のシステムにはクラウドは非常に相性が良い。逆にクラウドに移行することで、内製主体で開発してきたIT部門に、様々なSaaSをAPIで連携して活用していくという新たな文化を得られたという話も聞く。
今や、新たなシステムはまずクラウドをベースにして考えてみるという「クラウドファースト」という考え方も普及しつつある。では、パネルでも議論になったのだが、バックヤードの基幹システムもクラウドに移行させる必要があるのだろうか?そのコストを含めた効果とはどうなのだろうか?
その答えは、状況においても異なるかもしれないが、読者の皆さん、クラウドを勉強して、よく考えていただければ幸いです。
<お断り>
本稿の内容は著者の個人的見解であり、所属企業及びその業務と関係するものではありません。
寺嶋 一郎 |
PCNW幹事長 TERRANET 代表 |
1979年3月に東京大学工学部計数工学科卒業。その後積水化学工業に入社し制御や生産管理システム構築に従事。MIT留学を経て、(株)アイザックの設立に参画、人工知能を応用した積水化学の工業化住宅のシステム化に貢献する。2000年6月に積水化学に戻り情報 システム部長として積水化学グループのシステム基盤の標準化やITガバナンスの改革に取り組む。2016年3月に退職し、現在、TERRANET代表。
〒102-0083
東京都千代田区麹町3-3-4 KDX麹町ビル(クオリティソフト株式会社内)
TEL:03-5275-6121 E-mail:bunkakai@pcnw.gr.jp
© PC・ネットワークの管理・活用を考える会